塩素系除菌消臭剤の特徴
現在どこのペットショップやホームセンターのペット消臭剤コーナーへ行っても塩素系の消臭剤を良く見かけるようになりました。人気も上々であり、お店によっては一押しで大量陳列しているケースも見受けられます。
人気の秘密はまず除菌力の高さに対する期待値でしょう。
ペット用の物は概ね100〜200ppmの濃度で作られており、例えば怖い犬パルボウイルスをシャーレに10の6乗(約600万個)ほど植え、ペット用塩素系除菌消臭剤を5〜6回スプレーするとおおむね15秒程度で完全滅菌出来るほど強い除菌力を発するようです。
そしてこれら塩素系剤に共通の特徴として有機物に触れたら(除菌した後)水に戻るという性質が一般受けする要因となっています。従来の殺菌剤のように毒性は無く、早期に分解するために残留性も低く、これらの性質からして、一言でいえば「非常に便利なもの」という事が言えます。
では、塩素系ペット用消臭剤がどういう物であるかもう少し掘り下げて考えてみましょう。
まず塩素系剤には大きく分けて下記の2種類のものが市場に出回っています。
・HCIO (次亜塩素酸)
・CIO2(安定化二酸化塩素)
ここではあえて詳しい説明は省きますが、これらの素材で作られたペット用除菌消臭剤は、従来、化学工場や食品工場の清掃などに使われていた塩素剤と元は同じなのですが大きく違うところは塩素ガスが発生しにくいところです。
毒性と残留性は低く(塩素ガスは毒性)、塩素ガスが発生しにくく、除菌力が高くて除菌した後に水に戻るわけですからこれは本当に便利な物が出来たと言えます。
ペット生活での利用は
さて、この塩素系ペット用除菌消臭剤は実際に私たちペットオーナーはどう使えば良いかですが、メリットとデメリットを十分知る必要があります。
いくら近代的で高度な作りをされているとはいえ、塩素は塩素に過ぎません。濃度や量の問題もありますが謝った使い方をするとペットの健康を損ねたり、極端なケースでは軽いガス中毒になる事さえあるのです。
例えば、ペット用スプレーの塩素剤と水道の殺菌に使われる塩素を同等に比べるのは少し乱暴ですが、水道の殺菌には概ね5ppm程度、プールの殺菌には2ppm程度の塩素剤が使われているのに比べ、ペット用は先に述べたように少なくとも100ppmという濃度なのです。そして塩素ガスが発生しにくいように化学的に調整されていますが、それでも酸性の物に触れるとやはり塩素ガスは微量ながらも発生します。ですから銘柄によっては(良識のあるメーカーでは)「酸性の物と同時に使わない」「換気をしながら使用する」という注意書きがしてあります。
これは理論上だけではなく、私は仕事の現場でこの3年で2度実例を経験しました。
私がプロデュースしてインクスから発売している植物ビタミンスプレーのスーパーピュアラをお買い求めになられたお客様からクレームが販売されたペットショップへ来たのです。
この二人のお客様はいつもお使いのスーパーピュアラを購入した折に、新発売なったさる銘柄の塩素系ペット用消臭除菌剤も同時に購入され、トイレ周りの雑菌(匂い菌)を駆除すべく塩素スプレーを噴霧し、その上から植物成分であるフィトンチッドの持つ空気清浄効果・森林浴効果を求められてスーパーピュアラを吹きかけたところ、その後気分が悪くなってショップへ電話をされたとの事でした。
この原因は、動物の皮膚上の脂肪酸膜(弱酸性)を壊さないように、化粧水等と同様に体に直接使うため、ph6.7の弱酸性に調整してあるスーパーピュアラの酸性に塩素剤が反応して塩素ガスが発生したわけです。
そしてもう一つの現場での事例は非常に衝撃的でした。
もう4年ほど以前になりますが、中京地区のとあるトリミングサロンでの出来事でした。
トリミングを終えてきれいになったワンコを引き取って帰った飼い主さん、家に帰るとどうもワンコが目をこすって様子がおかしいので見てみると目が真っ赤になって涙をボロボロ出している。あわてた飼い主さんは獣医さんのところへすっ飛んでいて診てもらったところ、何かの液体が入って角膜全体が溶解しているとのこと・・・。
この事故はトリマーさんが知らずに塩素系除菌剤で目周りの掃除をした事が原因でした。
ちなみにその製品は200ppmの比較的有名な銘柄の除菌消臭剤でした。
改めて申し上げると、私は塩素系除菌消臭剤を否定しているのではありません。特質をちゃんと理解して使って頂きたいのです。
塩素剤の本質と機能と利用法をキチンと明確にしているメーカーさんのホームページのQ&Aをいちどちゃんと読んで頂きたいものです。
一部抜粋してみました
【 頻出のお問合せ 】
他の消毒剤と違って安全で環境に優しいんですよね?正確な情報ではありません。
殺菌効力を有する以上、使用方法等の注意点を守って頂かなくては安全・環境を損なうことがあります。
特に飲用以外の用途では、ガス濃度の管理は十分に御注意下さい。
「二酸化塩素が安全で環境に優しい」と言われるのは主としてトリハロメタンの発生がほとんどないこと、現在までに発癌性が認められていないこと等によります。
また耐性菌が出来ない(出来難い)という殺菌機構から、結果的に使用濃度の増加を招き難い点も安全・環境性と結びつけて考えることが出来ます。
すべての銘柄がそうではありませんが、ペット用にありがちな宣伝文句。
「人畜無害」「水に戻るから安全」「食品添加物である」「歯科医も口腔内殺菌に使っている」
「次亜塩素は体内でも生成される」「WHOが安全度Aに認定している」
などの文言で安心して誤った使用をされる事を懸念しているのです。
これらの製品はペット環境には一定の必要性はあると思っています。ケージやショップの展示ケースなどの除菌にはこれほど優れて取り扱いの楽な物は他には見当たりません。例えばスーパーピュアラなどの植物系消臭除菌剤ではパルボも真菌も簡単には死にません。大腸菌600万個に吹きかけても、生菌数ゼロにするのに4時間も掛かります。15秒で滅菌は塩素剤ならではの素晴らしさです。
だからといって、ペットの体の除菌や消臭に化学合成された除菌剤を直接使われる事を懸念しているわけです。
私たちやペットは体の表面にも中に100種類100兆個も菌が居るから生きているのを忘れないで欲しいのです。皮膚の上だけ見ても表皮ブドウ球菌をはじめ数種類の菌が老廃物を食べて皮膚の上に脂肪酸の膜(弱酸性膜)を作って守ってくれているのです。擦過傷や火傷の治療でも現在の医学では殺菌はせずに常在菌の力を活かした湿潤療法が主流です。むやみな化学的清潔はペットの健康を損ねる事をちゃんと知って頂きたいのです。
「舐めても安全」
「天然素材」
も同様です。
口の中は毒物を誤って食べても多少は大丈夫なように唾液や微生物で守られていますし、そもそも構造が目の粘膜より遥かに強いのです。分かりやすくいえば、激辛麺のスープを飲んでも平気ですが、それが目に入ったら下手すりゃ失明です。「舐めても安心」は「舐めたくらいでは大丈夫」「飲むと危険」くらいの認識の方が良いでしょう。天然素材という表現もあまりにもあいまいです。石油だってそうですし、猛毒のストリキニーネだって天然物であるわけですから・・・。
結局私がブログでこのような啓蒙活動に近い事をしているのは、これらの間違った認識を憂いているからです。何を使って良くて、何を使っていけないかの判断は合い言葉で覚えて下さい。簡単です。
ペットの皮膚は人間の赤ちゃんより弱い
です。
赤ちゃんの顔やお尻を拭くのに合成界面活性剤の入った物で拭きますか?塩素系除菌剤で拭きますか?
エタノールやアルコールや防腐剤ですら入ってない物を選んでは居ませんか?
じゃあ、ペットの体を清潔にするときにどうすれば良いのか。
もう懸命な皆さんにはお分かり頂けた事でしょう。
本当のペットのボディケアというものは、「家族同然」「家族の一員」をお題目ではなく、本当に我が子同様の気配りが必要だということなのです。