ナショナルジオグラフィックスさんのウェブページにて素晴らしい研究発表がされていました。
ヒトと犬は最古最良の友達だとよく言いますが、それらを裏付ける研究です。
ヒトと協力し合って狩りを成功させ、長い年月人と寝食を共にしてきた犬達。
脳の構造や特質、罹る疾病までヒトと犬は似通っているという結論です。
「家族同然、家族同様」という言い回しや感慨の奥底には、こういった化学的医学的根拠で表せるほどの実態があるのかも知れません。
私たち人類は 3万年以上も犬達と一緒に暮らしてきましたが、本当に家族同然の扱い(配慮)をしているとは言い難く、もっともっと犬の事を良く知る必要があります。今回のニュースはそのことを深く考えさせられるきっかけを与えてくれました。
リンクだけではなく、あえて全文を貼り付けましたのでご覧下さい。
イヌとヒトは共に進化した
May 15, 2013 ヒトとイヌの間には、古代より連綿と続く繋がりがある。夜はピタリと寄り添い 日中に歩けばはしゃぎ回り、寝床に付けば足下にうずくまって親愛のまなざしで 見つめてくる。 そんなイヌだが、これまで考えられていた以上にヒトと深い繋がりがあると最新 の研究で明らかになった。それはわれわれの遺伝子に刻まれている。 シカゴ大学を初めとする国際研究機関から集ま った研究者らは、ヒトとイヌの遺伝子を調べ、 複数の遺伝子グループが何千年にもわたり並行 して進化していたことを発見した。 これら遺伝子は、食事や消化、そして神経学上 の作用や疾病などに関連するものだ。
研究によれば、ヒトとイヌの並行進化は環境の 共有によって起きた可能性が高いという。論文 は5月14日発行のNature Communications誌 に発表された。
「家畜化は人口密度の急激な増加と住環境の過密 化に結びつけられることが多い。 こうした不利な環境が選択圧力として働き、両者の遺伝子変化に繋がったのかも しれない」と論文には記されている。
たとえば過密な状況でイヌがヒトと暮らすことで、比較的おとなしい方が優位 に働き、イヌ科の動物はより従順性が増し、最終的に無条件の愛情を込めた無垢 のまなざしを向けるペットになったのかもしれない。
研究者らは論文の中で、イヌが家畜化したのは3万2000年前だろうとしている。 これは1万5000年から1万6000年前とする現時点での推定よりもかなり古い。
「3万2000年前というのは少々古い」と話すのは、カリフォルニア大学ロサン ゼルス校(UCLA)の進化生物学者ボブ・ウェイン氏だ。とはいえ同氏も、オオ カミとイヌが明確に分化したのは6000年から12万年前の範囲だろうと認めて いる。
また今回の論文では、イヌの家畜化が始まった地域について、中東という従来 推定と異なり東南アジアとする推論を示した。
◆イヌ科動物のミッシングリンク
研究者らは遺伝子解析にあたり、ロシアと中国のハイイロオオカミ4頭、 中国の野犬3頭、そして家畜化された育成種3頭(ジャーマン・シェパード、 ベルジアン・マリノア、チベタン・マスティフ)を調べた。
解析によって、家畜化に関係する遺伝子はどれか、どのくらい前に家畜化が 起きたのかが明らかになる。また同時に、家畜化の期間に発生したイヌの 遺伝子を調べ、ヒトの遺伝子と比較した。
「イヌの家畜化は2段階で説明されることが多い。第1段階はオオカミから イヌへの変化で、第2段階はイヌから育成種(繁殖犬)への変化だ」と語る のは、 論文の共同 執筆者で中国科学院の遺伝子研究者ウェイウェイ・ジャイ(Weiwei Zhai) 氏だ。
今回の研究で調べた中国の野犬を含む東南アジアの野犬は、世界の他地域 の野犬と 比べて遺伝子の違いが大きく、進化上は純血種のイヌとオオカミの中間の 存在かもしれないとジャイ氏は説明する。 つまり中国の野犬がイヌ科動物におけるある種の「ミッシングリンク」 になるということだ。
◆共に進化する
ジャイ氏らがイヌの遺伝子とヒトの遺伝子を比較したところ、セロトニン など神経伝達物質の運搬やコレステロール生成、そして癌にまつわる部分 が選択的に現われていることを発見した。
異なる種の遺伝子に同じ部分が存在する現象は、自然界ではめったに発生 しない収斂進化として知られるが、ジャイ氏によれば今回の結果はそれほど 驚くことではないという。 結局のところ、ヒトとイヌは同じ住環境を長年にわたって共有してきたか らだ。
中国科学院のヤーピン・ジャン(Ya-ping Zhang)教授によると、 ヒトとイヌは食習慣と行動に関する遺伝子を共有しているほか、肥満、強迫 神経症、てんかん、そして乳がんなど一部のがんといった疾病に関する遺伝子 も共有しているという。
同氏はその理由について、遺伝子には多くの場合複数の側面があるためだと し、「ある側面は有利だとしても、別の側面が有害ということがあり得る。 選択上の優位性が有害性の負担を上回れば、その遺伝子は残り続けるだろう」 と説明した。
ジャイ氏によれば、今回ヒトとイヌの間で共に進化していたと判明した がん関連遺伝子についても、同様の選択が働いた可能性があるという。
◆結論はまだ先の話
今回の研究で遺伝子解析にあたり、参照データを提供したUCLAのウェイン 氏は「(彼らの研究が)完全な遺伝子データに基づいて行なわれたのは良かった」 と語る。 ほかの研究ではミトコンドリアDNAなど、部分的な資料に基づいているからだ。
ただし、同氏はヒトとイヌ科動物の遺伝子比較について、注意を要すると警告 する。 中国とロシア以外のイヌ科動物についても遺伝子調査を行なうことで、 イヌの家畜化が発生した時期と地域の特定に役立つだろうという。
さらにウェイン氏は、今後ヤギやウマなど他の家畜動物とヒトの遺伝子を比較 しなければ、ヒトとイヌの並行的な遺伝子進化が特有のものなのか否か判断する のは難しいと語った。
とはいえ同氏は、今回の研究がイヌの家畜化に新たな一章を付け加えたと評価 する。
しかしその物語はまだまだ終わりそうにない。
Photograph by Adrian Moss/Your Shot 強迫性障害に見る犬と人間の共通点June 11, 2013 強迫性障害(OCD:犬の場合は「CCD:canine compulsive disorder」) を患う人間と犬は、脳機能に現れる構造的な特徴が共通していることが わかった。 誰からも愛されるペット、犬の脳を分析すれば、人間の不安感を医学的に 理解し、 対処する助けにもなるという。 強迫性障害の症状は、犬と人間の間でよく似て いる。 投薬による治療法も共通し、どちらにも異常行 動を引き起こす遺伝的要因が知られている。
今回、強迫性障害になったドーベルマン8匹 の脳をMRI(核磁気共鳴画像法)でスキャンし たところ、脳の構造的な特徴も等しいことが 判明した。
アメリカ、インディアナ州にあるパデュー大学 獣医学部の動物行動学の准教授で、今回の研究 を率いた尾形庭子氏は、 「人間と犬には数多くの共通点がある」と話す。
カリフォルニア州南部を拠点に活動している応用動物行動 学者、ジル・ゴールドマン(Jill Goldman)氏も同意しており、「両者の類似点 を新たに裏付けた」と評価している。
ゴールドマン氏によると、例えばアルツハイマー病に相当する老犬は、人間の 変性疾患を分析するうえでの貴重な研究材料となっているという。
◆脳構造の特徴に共通点
アメリカ人の約2%が強迫性障害に苦しんでいるが、この不安障害の原因はまだ わかっていない。
患者は、頻繁に手を洗ったり、ドアの鍵の開け閉めを何度も確認したりする など、さまざまな強迫症状を示す。儀式的な行動を繰り返す傾向があり、日常 生活に支障をきたす場合が多い。 一方、強迫性障害の犬にも同様の反復行動がみられ、自分の尻尾を追い続けたり 手足を舐め続けたりする。
尾形氏のチームは今回、強迫性障害の犬8匹と、同数の健常犬を対象に分析を 行った。 犬種には、強迫性障害の遺伝的要因を持つことが最初に確認され、発症率も高い ドーベルマンが選ばれた。アメリカにいるドーベルマンの約28%がこの疾患に かかっているという。
MRIスキャンを各グループに実施したところ、強迫性障害のドーベルマンは 脳組織量が多く、特に灰白質の総量が上回った。灰白質は、脳と脊髄内部にある 灰褐色の細胞組織で、大部分が神経細胞から成る。一方、特定部位における灰白 質の密度は低く、どちらも人間の患者と同じ特徴を示している。
尾形氏によると、共通する特徴が現れる理由はわかっていないが今後も、 脳と強迫性障害との関連性を探るために、被検体を増やし、別の犬種も対象に 検証を繰り返していくという。
「犬は研究室のマウスとは違い、人間の生活と密接に関わっている。 不安症の仕組みを解明し、その治療法を確立するうえでは、 どちらも最高の研究対象と言える」と同氏は語った。
◆強迫性障害になった犬の扱い方
動物行動学者のゴールドマン氏は、強迫性障害を患っている犬を診断した 経験から、 対処法について次のように説明している。
まず飼い主は、犬の行動に目を光らせ、過度の反復行動をチェックする必要が ある。影を追いかける、何もないのに空中に向かって口をパクパクさせる、 自分のわき腹や毛布を舐める、尻尾を追いかける、裂傷になるまで手足を噛む、 といった行動が繰り返されている場合は危険信号だ。
いずれかの強迫行動が確認されても、過度な反応は禁物だ。尻尾を追いかけ続け ている犬を見て飼い主が大袈裟に騒ぎ立てると、犬はさらに不安を募らせ強迫 行動を続けることになるという。「火に油を注ぐような態度は事態を悪化させる」 とゴールドマン氏。
また、強迫行動を招くストレス要因を遠ざけることも重要だ。例えば、反復 行動のきっかけが騒音ならば、なるべく静かに過ごす。
また、不安感でがんじがらめの犬を、なにか有意義なことに対する欲求で満 たす方法も有効という。 おやつを混ぜるタイプの犬用玩具は、工夫しないとおやつを取り出せないように 工夫されており、さまざまな種類が販売されている。毎日の食事を容器に よそってもらうのが今は当たり前だが、家畜化する前の犬は多大な労力と知恵を 注ぎ、自力で食料を探してきた。そうした犬本来の欲求を満たすというわけである。
「こうした玩具を与えれば、犬は自傷行為より健全な行動に集中し、 ストレス要因に対処できるようになる」とゴールドマン氏は語った。
ただし、同氏によると中には推奨できない遊びもあるという。 例えばレーザーポインターだ。光線を追いかける猫は、過覚醒(PTSDの1種) を引き起こす場合もある。
最後に尾形氏はこう付け加えた。 「そもそも犬は人間の手によって家畜化された動物だ。飼犬に苛立ちを覚えたら、 そのことを思い出して欲しい。私たち人間が犬たちの行動に責任を持ち、 問題行動の防止方法や対処方法を学んでいかなければならない」。
Photograph by Stephen Power, Alamy
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